今まさにモビリティ業界は転換期
古川 修 電動モビリティシステム専門職大学 | 教授・学長上席補佐
荒木 泰晴 株式会社 エンベックスエデュケーション | 代表取締役
モビリティ社会に貢献する人材を輩出するために2023年4月に開学した電動モビリティシステム専門職大学。株式会社エンベックスエデュケーションは電動モビリティシステム専門職大学と、2023年4月1日モビリティ分野に関する社会人向けコンテンツの開発で提携いたしました。今回は、学長上席補佐であり、自動運転領域がご専門の古川修教授にお話を伺いました。
今まさにモビリティ業界は転換期
古川: ただ、このような電動化の動きの背景には、欧米中の自国産業を守ろうという政治的な動きがあると考えています。ヨーロッパでは、日本のハイブリッド技術とは違う方向に転換しようという意図があるように思いますし、中国においては日本の技術を吸収しようとすることを考えたときに、エンジンなどの内燃機関を使った車よりも、電気自動車の方が技術導入をしやすいといったところに理由があると思っています。
いずれにしても、この電動化の潮流に日本の自動車業界が乗ってしまうことに、私はあまり賛成していなくて、あくまで日本のハードウエアの技術を保ちながらソフトウエア化にも対応していくことが必要ではないかと思っています。
荒木: ありがとうございます。そうですね、確かに自動車業界はここ数年で大きく変わってきているのを実感しています。
電動モビリティの技術で地方都市を救う
荒木: そのような中で、今回、電動モビリティシステム専門職大学の教授に就任されましたが、先生が感じていらっしゃる社会課題と、その解決のために何か取り組んでいらっしゃることがあればお伺いできますでしょうか?
古川:本学が今年の4月に開学し着任できたことはちょうど良い機会だと思っています。
本学のある山形県の飯豊町(いいでまち)は、「日本で最も美しい村」連合に参加してる、自然豊かな地域ですけれども、公共交通の便がかなり不便なのです。新幹線停車駅から在来線に乗り継いだ最寄り駅から歩いて30分くらい、タクシーも少ないというところです。
このような、公共交通の不便な都市が地方にはたくさんあります。それは何故かというと、高齢化の割合が非常に地方の方が大きいのに対して、若者の流出は多く流入が少ないからです。それによって地場産業がどんどん衰退していって、魅力もなくなっていくという、負のスパイラルに陥っています。このままにしておくと、日本がそういう地域からどんどん衰退していって、生き残るのは大都市しかなくなるような状況になりかねません。
私は、そういう状況の解決策として、電動モビリティの技術が大きな力を発揮できると思っています。「自動運転や車の電動化の技術」というものを利用して、地域に合った新しいモビリティを開発し、それをうまく活かすことができれば地方都市を過疎地から未来都市に変えられます。まさにそれを実現するためにこの大学があると思いますし、しかも実現には非常に高い価値があると考えています。そのためにプロジェクトを進めているところです。
荒木: 電動モビリティシステム専門職大学は学生を支援するというアカデミックの領域だけではなく、地域課題の解決も視野に入れて取り組んでいらっしゃるということですね。素晴らしいですね。
古川: 学生への教育という観点でもですね、単に座学で教えるということではなくて、一緒に地域の社会的な課題を考え、その中でどんな問題があるのかということを考える。そういう問題を抽出してそれに対して最適なソリューションとしてのサービスがどんなものか、そこら辺を考える力をつけるというのは、これからの自動車分野のエンジニアには非常に求められていることです。まさにそれを本学が実践していこうとしているところであります。
荒木: 自動車技術は多岐にわたる技術要素がありますが、ここには車載だけでなく車を取り囲む環境を含めたソフトウェアやソリューションを実証できる場所があり、学びながら実践できるというのがとても魅力的ですね。
古川: ええ。それで我々も地域との連携というものを非常に重要視しまして、つい先日「電動モビリティ地域共創コンソーシアム」というものを立ち上げました。これは飯豊町と山形県と本学の三者が連携して、新たなモビリティ関連産業の創造を促進することによって、地域産業の振興と地域活性化を図っていくものです。
地域と一体となって、ソリューションを実現していきます。
今後のモビリティ業界に求められる人材とは
荒木: 今までお伺いした業界の背景、地域課題を踏まえて、人材育成における課題とか、目指すべき方向について、お話いただけますでしょうか。
古川: さきほど申し上げたように、社会の課題から重要な問題を抽出してくる能力、それに対するソリューションを考える力というものが必要となってきます。ソリューションというのはこれまではハードウェア指向が非常に強かったですけれども、これからはどんなサービスをしていくかというソフトウェアのソリューションが主体になっていくので、全体のサービスシステムのデザインができる人材が求められてきます。その中の要素となるような、いろんなソフトウェア技術、例えばAIの画像認識であるとか、交通問題で言えば、MaaSのいろんな交通をどのように使っていくかというような配車のソフトウェアであるとか、そういった専門性が十分にあり、全体のアーキテクチャも見えるような人材というのがとても重要になってきます。
荒木: それを特に大学だけでなく、地域をも含めたプロジェクトとして育てていくということですね?
古川: はい、そうですね。飯豊町を中心として、そのうち山形県全体に広げる、地域を未来都市化するようなそういう交通を中心とした社会の改革ということに対して、学生も一緒に入って考えていけるような環境を作ろうと考えています。現場の課題をきちっと目で見て捉えながらソフトウェアをどう設計するということにつながるように教育する、要するに現物を扱ってある程度のソフトウェアサービスを作成するということが教育には一番重要なのです。
深い専門性を持ちながら幅広い知識を持つようなリーダーを育ててください
荒木: それでは最後に弊社エンベックスエデュケーションが、今後業界や、人材育成に関して果たすべき役割があれば是非コメントをお願いいたします。
古川: 今後の社会の改革はソフトウェアの指向から始まるという話をしましたが、全体のデザインをするにしてもある程度深い専門性があってこそ、きちんとした全体のアーキテクチャを見る力が養えるわけです。そのためには、T型人間とかΠ(パイ)型人間とか呼ばれますが、深い専門性を持ちながら幅広い知識を持つようなリーダーが必要ではないかと思います。例えば画像認識であるとか、自動運転のソフトウェアの専門的知識を習熟した上で、全体のデザインとか社会の課題が抽出できるというような人材です。そういった人材をぜひ増やしていっていただきたいと思います。
知識の修得とそれを研究開発で使える訓練だけではなく、課題発見能力、課題解決のための新技術構想力、達成するための開発計画力、実行力を高める教育を、技術者の個性や関わる技術開発の特徴に応じて実施するプログラムを提案していただくことを期待しています。
荒木: ありがとうございます。そうですね、私たちも社会課題を解決する一端を担っていけるよう頑張ってまいります。引き続き講座連携を含めて、今後ともよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
電動モビリティシステム専門職大学
教授・学長上席補佐
古川 修(ふるかわ よしみ)
1971年 東京大学工学部産業機械工学科卒
1977年 同大学院工学研究科舶用機械工学専攻博士課程単位取得退学
1977年 (株)本田技術研究所入社
2002年 芝浦工業大学システム工学部教授に就任。
2018年 芝浦工業大学を退任。
2019年 明治大学自動運転社会総合研究所の客員研究員就任。
2023年 電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐に就任。